「あのまち」に寄せて
「あの夏の日」2019
今年の初夏、生まれてから高校卒業まで住んだ街に行ってきました。
卒業と同時に引っ越して以来なので、約15年振りです。
今住んでいるところから遠くはないのですが、なぜか行く(帰る)機会がありませんでした。
地元の駅は開発が進んでいて、私が住んでいた頃とはすっかり様子が変わっていました。
昔ながらの喫茶店はチェーンのカフェになり、駅前にはおしゃれなスーパーやドラッグストアができて、昔よりもずっと便利で住みやすい街になりました。
学校帰りにいつもプリクラを撮っていたゲームコーナーは無くなって、子どもの頃から何度も買って食べていたたこ焼き屋さんも閉店していました。
その中でも、ずっと変わらない建物やお店もあって、
「うわー!あのお肉屋さんまだあるー!!魚屋さんもー!!」
と感激したり。
「このベンチで、真冬にさぶいさぶい言いながらソフトクリーム食べた!!」
と思い出したり。
15年の月日で変わるものと変わらないものが混在している様子が面白かったです。
駅から当時の家の前まで行って、通学路を歩いて小学校も見てきました。
私が住んでいた家は外観が変わっていて、今は知らない誰かが住んでいます。
通っていた小学校は、当時と比べて、校舎も校庭も小さく感じました。
確かに私はここに住んでいて、18年間生活していました。
目の前に広がる景色は、私の頭の中を懐かしさでいっぱいにしたし、あの頃に見ていた景色で間違いないはずです。
でも、当時の記憶とぴったり重なる部分と、ほんの少しズレた部分と、見たこともない新しい部分が代わるがわる目の前に現れるのです。
ここは「私の故郷」であって「(今の)私の街」ではないんだな、と思いました。
いつかふとした時に思い出す「“あの”街」なのです。
これから先、いろんな場所を訪れて、そこで暮らすこともあって、どんどん「“あの”街」が増えていく。
ずっと変わらずそこにあってほしいと願っても、変化していくことは止められません。
それは、故郷や様々な場所だけでなく、私自身も。
変わることを寂しく感じていた頃もあったけれど、変わりながらも在り続けることができればそれで良いのかもしれない。
今はそう思います。
《余談》
地元の駅前のパン屋さんで買った白パンが、今まで食べた白パンの中で一番美味しかったです。
“あの”パンを食べるために、また地元の駅を訪れたい。
・今回の個展のステートメント
かつて住んでいた町。遠い昔に行ったことがある街。電車の窓から見ただけの風景。今、大切な場所。
記憶の中のその景色は、今どうなっているのだろう。もう二度と行かないかもしれないし、一生知ることなく終わるのかもしれない。
そこに思いを馳せてみても、それは「かつてそこにあった景色」であり、「今そこにある景色」を鮮明に思い浮かべることはどうやってもできない。
時間を積み重ね、景色は移り変わっていく。
今は遠く手の届かないあのまちを、断片的な記憶と自分の手で創り上げる。
そしていつか自分の目で、またあのまちを見てみたい。
個展「あのまち」は、21日(月)からです。
よろしくお願いいたします。